
子どもの権利を保障するために、日本をはじめ世界約110ヵ国で、緊急・人道支援や保健・栄養、教育などの分野で活動を行う非営利の国際組織、セーブ・ザ・チルドレンの活動を紹介します。第3回は海外事業部プログラム・コーディネーターの中村茜さんが担当します。(編集部)
はじめに
セーブ・ザ・チルドレンは、生きる・育つ・守られる・参加するなどの子どもたちの権利が守られる社会の実現を目指して活動しています。教育分野では、学習環境の改善、教員の能力養成、地域社会の意識向上、就学前教育の普及などを通じ、すべての子どもが質の高い教育を受けられるよう支援しています。
教育とは「学校に通う」「授業を受ける」だけではなく、子どもたちが「自分にも声がある」と気づき、その声を上げ、社会に参加する力を育む機会でもあります。私たちは、子どもたちが何を・どのような方法で・どのような環境で学ぶのかという視点から、子どもたちとともに本当に必要な支援を多角的に検討しています。
広がる学習危機
世界では今、紛争・気候変動・パンデミックなど、さまざまな危機が重なり、学習危機が深刻化しています。2025年1月時点で、学齢期の子どもは約2億3400万人いますが、そのうち約8500万人が学校に通えていません。また、通学できている子どもたちの中でも、初等教育終了時に最低限の読み書きができると見込まれる割合はわずか17%に留まります。難民・国内避難民として避難生活を送る子どもたちは年々増加しており、彼らは受け入れ先での学校・教員の不足や、言語やカリキュラムの違い、経済的困難などによって学ぶ機会を奪われています。
「学び」と「ウェルビーイング」
セーブ・ザ・チルドレンは、学習危機に対応するため、「質の高い学びの枠組み(Quality Learning Framework)」に基づいた教育支援を行っています。この枠組みが目指すのは、基礎的な学力(読み書きや計算)の習得と、心身ともに安全で健やかな状態(ウェルビーイング)の両立です。学力は、子どもたちが社会に参画し、人生の選択肢を広げるために欠かせません。そして、子どもたちが「自分は大切にされ、受け入れられている」「話を聞いてもらえる」と実感できること、そして社会情動的スキル(感情のコントロールや他者との協働といった非認知スキル) を身につけることも、学びと成長のために不可欠です。

誰も取り残さないために
私たちは、常に活動の中で「誰が参加できていて、誰が取り残されているのか」を問い続けています。障害・民族・言語・ジェンダー・性的指向・国籍・人種・貧困・宗教・文化的背景などにより、多くの子どもたちが今も学びの機会から排除されています。状況を改善するためには、まず差別や不平等の構造を含む障壁を分析し、子ども自身や保護者、教員、地域とともに解決策を考える必要があります。これは一部の子どもたちだけの特権ではなく、紛争や災害など人道危機の影響を受けた子どもたちを含め、すべての子どもに保障されるべき当然の権利です。
各国での教育支援事例
〈モンゴル〉
モンゴルでは、初等教育の純就学率は95%と著しく低くはないものの、障害のある子どもたちの多くが今も教育の機会から取り残されています。私たちは、親・養育者に子どもが学ぶ権利を伝え、学校に対しては、児童一人ひとりのニーズに応じた支援ができるよう設備の整備や教員研修、そして事業の成果が継続していくよう政策提言を行いました。私が出張中に出会った教員は、当初どのように指導したらよいかわからなかったものの、研修で多くのアイデアを得ることができたと言います。今では児童の個別のニーズに応じた学習計画・教材を作り、児童・保護者と相談しながら指導を進めているそうです。

〈カンボジア〉
カンボジアでは、学校での暴力や体罰について、セーブ・ザ・チルドレンの2013年の調査では73%の生徒が学校で少なくとも1回、なにかしらの暴力を受けたことがあると回答しました。こうした状況を受け、私たちは子どもたちが主体となって暴力のない学校づくりに取り組む活動を進めてきました。私たちの活動開始前、体罰を受けながらも学校側に取り合ってもらえなかったというキムさんは、活動に参加して子どもの権利、暴力とは何か、そして被害にあった場合の相談・通報システムがあることを知りました。匿名で投書できる意見箱が学校に導入され、キムさんが再び声を上げると、学校は対応に踏み切りました。学校を安全な場所にするために、他の生徒たちにも学んだことを伝えていきたいと話しています。


最後に
昨今の国際的な援助の削減により、セーブ・ザ・チルドレンが支援する180万人以上の子どもたちが学びの場を失っています。特に難民キャンプや避難民キャンプの子どもたちにとって、学校は学びの場であるだけではなく、食事や心理的サポート、安全な居場所を提供する重要な存在でもあります。ミャンマーから逃れ、バングラデシュの難民キャンプで暮らすサベラさんは、「私は授業で勉強したり学んだりするのが好きでした。突然、学習センターが閉鎖されることを知り、誰かが私から自由と幸せを奪い去ったように感じました。」と話します。 困難な状況下にありますが、私たちはすべての子どもたちが学び、自分の人生を切り拓いていけるよう、これからも活動を続けていきます。(中村 茜)
(写真提供:Save the Children)

プロフィール:
中村 茜(なかむら・あかね)
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部プログラム・コーディネーター。高校時代に知った児童労働の現状をきっかけに国際協力の道を志す。米国コロンビア大学ティーチャーズカレッジで、国際教育学修士課程修了。ブルックリンの日英バイリンガルスクールでの勤務を経て、2023年から、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレンのスタッフとしてアジア地域の開発、緊急・人道支援に従事している。




