Home コラム  第2回 「子どものための心理的応急処置」について

 第2回 「子どものための心理的応急処置」について

赤坂美幸さん

セーブ・ザ・チルドレン、精神保健・心理社会的支援エキスパート


 はじめに

 前回の記事では、セーブ・ザ・チルドレンが災害などの緊急支援活動の中で実施する「こころのケア」について紹介しました。その中で、私たちは、自然災害などの出来事を経験した子どもたちが示す反応が徐々に落ち着いていくことや、子どもたちが前向きに対処できるよう支援する活動、メンタルヘルスなどの専門的な支援が必要な子どもには早急に専門家へつなげられるよう、活動を行っていることをお伝えしました。

 今回は、これらの活動を実現するために、スタッフやパートナー団体、ボランティアが受講している「子どものための心理的応急処置」トレーニングを紹介します。

心理的応急処置とは?

 心理的応急処置(Psychological First Aid=PFA)は、特別な心理的知識がなくても、災害などの影響を受けた人々を支援する際、被災者の尊厳、文化、能力を尊重した支援ができるよう、支援者が取るべき行動や姿勢を示したものです。人道支援の国際ガイドラインでも推奨されていて、2011年にはWHOなどがPFAの研修マニュアルを発行しました(出典1)。2013年には、セーブ・ザ・チルドレンが、WHO版のPFA研修マニュアルを基に、より子どもに特化した「子どものためのPFA」研修マニュアルを発行しました(出典2)。

 現在、世界の人道支援現場でPFAレーニングを受講した支援者が多く活動しているほか、日本国内でも防災の取り組みとして研修を実施している自治体もあります。

子どものためのPFA研修とは?

 子どものためのPFA研修では、ストレスを抱えた子どもが示す反応について、発達段階別に学びます。そして、PFAの行動原則「見る、聴く、つなぐ」と、各アクションのポイントについてロールプレイなどを交えながら学び、いろいろな場面で「見る、聴く、つなぐ」を使えるように練習していきます。

PFA(Psychological First Aid)と何か

PFAには次のようなことが含まれます。PFAは、このようなものではありません。
被災した人々に対し、
• おしつけがましくない、実際に役立つケアや支援を提供
• ニーズや心配事の確認
• 水や食料、住居など、基本的ニーズの援助
• 無理強いをせず、傾聴する
• 安心させ、落ち着けるよう手助けをする
• 被災者に、情報や公共サービス、社会的支援につなぐ
• さらなる危害からの保護
• 専門家にしかできないものではない
•  専門家が行うカウンセリングではない
•  無理に話を聞き出すものではない
• 「心理的ディブリーフィング」ではない(つらい出来事について詳しく話をしていくものではない)
• 何が起こったのかを分析させたり、起きた事を時系列に並べさせたりするものではない
• 被災者が語るのを聞くことはあっても、感情や反応を聞き出すものではない

子どものためのPFA
「見る、聴く、つなぐ」のポイント

PFA研修の様子  ©Save the Childrern

 「見る」まずは、子どもや支援者自身の安全が確保されているか、確認をします。そして、明らかに支援を必要としている子どもや困っている子どもはいないかを確認します。保護者などは、子どもの様子が普段と違わないか、少し注意して見守ります。

  「聴く」次に、支援が必要であろう子どもに寄り添いながら、必要なことを尋ねます。この時、子どもに起きた出来事や感情を聞き出すことはせず、子どもから話ができるよう、話しやすい環境を作ることも大切です。子どもが話し始めたら、話を聴くことに集中します。

 「つなぐ」子どもの話の中に、必要としていることが出てきたら、それが満たされるように支援します。この時、子どもができることは自分でできるよう意識しながら、サポートすることが大切です。それから、支援者が自分のできる範囲を超えないことが大切です。対応できないことは、できる人へつなぎます。

  災害などの影響を受けた子どもは、大人と同じようにストレスを抱えますが、多くの子どもが衣食住といった必要な支援を受けられ、安心できる家族や友だちと過ごすことができ、学校が再開するなどの日常が戻ってくれば、徐々に落ち着きを取り戻していきます。ただし、災害によって強いストレスを受け日常生活に支障をきたしたり、災害前からメンタルヘルスの問題を抱えていた子どもに対しては、早めに専門家に相談する(つなぐこと)が重要です。

まとめ

 子どもの変化は気づかれにくいと言われています。だからこそ、子どもの親や養育者だけではなく、多くの大人が「見る、聴く、つなぐ」で子どもを支援することで、子どもの小さな変化に気づきやすくなり、必要としている支援に適切につないでいくことができる可能性があります。

 また、私たちは一人で支援をしたり、その人の問題を解決することはできません。多くの人が「見る、聴く、つなぐ」という共通言語を持ち、連携して支援することが大切です。例えば、「何かお手伝いできることはありますか?」といったちょっとした声掛けや小さな行動でも、その人のメンタルヘルスを支えることにつながっています。

 そのため、ぜひ、多くの人に子どものためのPFAを知って、実践してほしいと思っています。これにより、災害や貧困などの影響を受け困難を抱えている子どもが必要としている支援へ迅速につなげられるようになり、子どもたちが再び安全に安心して過ごせる環境を地域全体でつくり出すことができる可能性があります。 

出典:

 1. World Health Organization, War Trauma Foundation, & World Vision International. (2011). Psychological First Aid: Guide for Field Workers. Geneva: WHO (訳:(独)国立精神・神経医療研究センター、ケア・宮城、公益財団法人プラン・ジャパン(2012).心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド.    

 2. Save the Children. (2013). 子どものための心理的応急処置-Psychological First Aid for Child Practitioners. デンマーク: Save the Children on behalf of the Child Protection initiative.

プロフィール:

赤坂美幸(あかさか みゆき) 

 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン 精神保健・心理社会的支援エキスパート。

 英国大学院で心理学・神経科学修士課程修了。2012年から、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフとして国内外の緊急・人道支援に従事し、ウクライナ危機(2022年)やトルコ・シリア大地震(2023年)でも最前線で人道支援を行う。2014年に「子どものための心理的応急処置」を日本に導入し、多職種と連携した子ども支援や心理社会的支援の推進に尽力している。 資格:保育士、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(米国)