
圓岡悦子さん
(鍼灸師・看護師、クリアースプリング鍼灸院経営)
シルバースプリングにクリアースプリング鍼灸院を昨年開設した鍼灸師の圓岡悦子さん。ここに至るまでの道のりを訊いた。(聞き手・本紙編集長武末幸繁)
ここにたどり着くための道のりだったと思える
ーメリーマウント大を出られてからは?
卒業後は、ジョンズ・ホプキンス病院の血液腫瘍科病棟で、1年間ほど看護師として働きました。その後、2001年にモンゴメリー郡の学校保健課に就職し、スクールナースとして働き始めました。2000年に最初の結婚をして、4年後に息子が生まれ、出産後8週間で仕事に復帰しました。息子を朝早くから保育所に預けながらの仕事復帰は大変でした。ただ、スクールナースの仕事は好きでした。特に最後に担当した高校では、ウエルネスセンターといって、保健室、クリニックと青少年育成センターが併合されている特別な設定で、医療スタッフ、メンタルヘルス・セラピスト、青少年育成カウンセラーなどいろいろな職種の方々と共にチームで生徒さん達をサポートしました。とても忙しかったですが、やりがいのある仕事でした。

ーやりがいがあったけど辞められた?
2013年に、それまでの経験が評価され、同じ学校保健課でナースマネジャーとして働くという新たなチャレンジの機会が与えられました。当初はやりがいを感じ、意味のある挑戦だと信じて頑張っていましたが、次第に管理という仕事自体に疑問を感じ始めました。改めて自分を見つめなおし、やはり私が満足を得られるのは、間接的にではなく、直接患者さんやクライアントと関わる仕事なのだということに気づきました。
この頃から少しづつ方向転換は始まっていたと思います。第一歩として管理から離れることを決意し、2016年に地域保健課に移り、3年ほど保健師として働きました。
ー鍼灸師になろうと思ったのはなぜですか?

両親の影響もあり、元々東洋医学には興味がありました。実は、メリーランド・ユニバーシティー・オブ・インテグレーティブ・ヘルス(MUIH) へは、入学を決意する5年前に訪ねて行った事があるのです。その時、東洋医学、アユルベーダ、ヨガセラピーをはじめ、いろいろなホリスティックヘルスの分野が学べることを知りました。その時点では息子が小さかったこともあり、断念しました。後に背中を押されるきっかけになったのは、鍼灸師のロビン・ゴードン先生に出会ったことが大きいです。花粉症に悩まされて治療を受けに行ったわけですが、毎週通っていると鍼の力ってそれだけじゃない、あらゆる面でサポートになるということがわかってきました。仕事上のストレスが溜まっている時も鍼治療を受けて心が落ち着き、新たな気持ちで難関に立ち向かうことができました。
やっぱり心と体は表裏一体で、体が良くなれば心も楽になってくるし、心が元気になってくると体調も良くなる。私がやりたかったのはこういった事の手助けをする事だったんだと感じるようになりました。とは言え、長い間かけて確立した職業を離れ、新しい分野に飛び込むというのは、正直怖かったです。それでも、最終的には2019年に思い切って仕事を辞め、MUIHの大学院に入学しました。
その後3年半ほど学業に専念し、2022年に卒業して、鍼の免許を取りました。そして2023年の初め、鍼灸院を開いたわけです。選んだと言いますか、振り返ってみれば、それまでの色々な経験も、ここにたどり着くための道のりだったんだなという気がします。患者さんと向き合って、その方の苦痛が少しでも和らぎ、より健康に生きていけるようにお手伝いすることは本当にやりがいがありますね。
心と体の総合医療鍼治療を普及させたい
ー診療はどういう感じなのでしょうか。

もちろん鍼とお灸が中心ですが、カッピングや遠赤外線ランプを併用したり、必要に応じて電気鍼療法も使っています。鍼といえば、一般的には痛みの治療がよく知られているようですが、実はもっと広範囲に適応できるのです。例えば、慢性疲労、不眠症、生理不順、更年期障害、不安症状、消化器系や呼吸器系疾患などです。鍼のいいところは、例えば膝が痛くて来られたとしても、膝の治療が進む過程で、気持ちが軽くなったとか、夜眠れるようになったとか、エネルギーが湧いてきたなど、その他の良い効果も徐々に現れてくるところだと思います。それは、鍼治療がただ単に、部分的な支障を取り除く事だけに焦点を置いているのではなく、その方全体がより健康になり、ご自身の自然治癒力を最大限に生かせるようお手伝いする事も目的としているからだと思います。先ほどお話しした、心と体が表裏一体だという事は、日々患者さんと向き合わせていただく中で新ためて強く感じることですし、治療の指標として大切にしています。
ー患者さんはどんな方が多いですか?
いろいろな年齢層の方がいらっしゃいます。鍼に恐怖心を持っていらっしゃる方にも、その方がリラックスできる方法で対応させていただいています。日本人の鍼灸師を探して来られることもあり、今のところ患者さんの約3割が日本の方ですね。
米国ではここ20年くらいの間に鍼治療への理解がより深まってきていると思います。研究発表なども増えていますし、WHO(世界保健機構)も100種類を超える疾患や症状に、鍼の適応を奨励しています。私の鍼灸院にも、お医者さんから鍼を勧められて来たという患者さんがよくお見えになるようになり、健康保険が使える場合も多くなってきています。これからももっと理解が深まり、より多くの方が気軽に鍼治療が受けられるようになっていくといいですね。
ーありがとうございました。
圓岡悦子(まるおか・えつこ) プロフィール
1966年、山口県山口市生まれ。1988年、山口赤十字看護専門学校卒業。看護師として地元の日赤病院に勤務。1992年のセビリア万博で国際赤十字のボランティア活動。国際救護員としてのトレーニングを受け、93年には公衆衛生の仕事でスリランカに半年間派遣される。96年、米国に留学し、メリーマウント大学を99年に卒業。看護学 学士号取得。ジョンズ・ホプキンス病院勤務を経て、モンゴメリー郡の学校保健課に入りスクールナースを12年間務める。その後、3年半、学校保健課のナースマネジャーとして勤務、3年間地域保健課勤務を経て、2019年にメリーランド・ユニバーシティ・オブ・インテグレーティブ・ヘルス(MUIH)に入学し鍼灸や東洋医学を学び、鍼の修士号取得。卒業後、23年にシルバースプリングにクリアースプリング鍼灸院を開設。家族は夫と息子一人。
鍼灸院のウェブサイトはwww.clearspringacupuncturemd.com