
米国永住権(通称“グリーンカード”)の申請には、家族スポンサー、雇用主スポンサー、抽選永住権、亡命者による申請などがありますが、各過程の審査時間に大幅な遅れがみられます。また、Priority Date (PD、*文末参照) の大幅な後退により、PDが回ってくる前に自分の滞在資格が失効してしまい、アメリカに滞在できなくなる人が増えるなど、新たな問題が浮上しています。
【Labor Certification】
雇用主スポンサー申請の中でも、労働局の審査を経る必要のある雇用主スポンサーによる第2申請枠と第3申請枠は、最近の労働局の審査遅延も影響して、全体の時間(平均賃金、求人広告、LC審査)が12+ヵ月から24+か月ほどと以前に比べ倍以上かかるようになりました。
【雇用主スポンサー申請】
Labor Certification承認後は雇用主による移民スポンサー申請を移民局に提出します。この審査時間は現時点でおよそ6〜8か月ほどかかっています。特急サービスを利用すれば3週間以内の審査となります。第1優先枠の国際役員・管理職枠と第2優先枠の国益免除 (NIW) の枠の特急サービスは45日以内の審査となります。
【永住権申請】
雇用主スポンサー申請承認後は、永住権申請までに待ち時間がないかPDを確認します。日本人の場合は1月時点で第1優先枠は待ち時間はなし、第2優先枠はPDが2023年4月1日、第3優先枠はPDが2022年12月1日あるいはそれ以前の人の申請を受け付けています。I-94の滞在期限が失効する前に自分のPDが回ってきたら永住権の申請 (I-485)を提出することができます。申請中はアメリカ国内に滞在して審査を待つことができます。審査時間は以前に比べ非常に長引いており、現時点で平均16カ月から30+カ月ほどかかっています。
米国内での永住権申請は、就労許可書と旅行許可書も一緒に申請できるので、申請中にI-94が失効したら、就労許可が来るのを待って就労を再開することができます。また、旅行許可書が届いたら国外に出ることもできます。入国時は旅行許可書を見せて入国することになり、入国後は短期就労ビザではなく、就労カードを使った就労に変わります。
【滞在資格の失効】
H-1BとLビザは移民する意思を示してよいビザなので、永住権申請中の延長申請や出入国が可能です。H-1B保持者の場合は6年満期が来ても、Labor Certificationを申請して1年が経過していれば、H-1Bを6年目以降も延長することができます。ビザ保持者はL-1A満期7年、L-1B満期5年を満たすまでは延長申請をすることができますが、それ以降は延長できません。その他のビザ保持者は自分のPDが回ってくるまでにI-94の滞在期間が失効した場合、アメリカ国内での永住権の申請 (I-485)はできなくなります。その場合は、最後の申請は、国外の米国大使館か米国領事館経由の移民ビザの申請に切り替える必要があります。
永住権申請中、上限を超えて就労ビザ滞在資格を延長できるのはH-1Bだけなので、H-1Bに変更できるオプションのある人は早めにH-1Bに切り替えたほうがよいでしょう。ただ、H-1Bは年間の抽選に当選した者のみ申請できるので、当選する保証はありません。また、H-1BとLビザの滞在期間は一緒に換算されるので、Lビザをすでに6年間使った人はH-1Bを申請することはできません。
【滞在資格失効後の就労】
ここのところ年間枠が早めになくなっているために、最後の段階申請までに数年の待ち時間ができています。そのために、PDが回ってくる前に就労滞在資格を失ってしまう人が増えています。特にH-1B以外のビザ保持者は、PDが回ってくる前に滞在資格が失効してしまうと、アメリカでの滞在資格を失ってしまいます。
• H-1B/Lの再申請
その場合、いったん国外に出て国外の関連企業で就職しながらPDの順番を待つこともできます。国外に最低一年出ていれば、再度H-1BやLビザを申請する資格ができるので、H-1BやLで再入国して、引き続き米国内で就労しながら順番を待つこともできます。
• Compelling Circumstance EAD
そのほかには、アメリカ国内に居残ったまま、I-94の失効前にI-140承認を元にCompelling Circumstance(差し迫った事情)という理由で 就労許可書を申請するオプションがあります。就労許可書が発行されれば、I-94失効後も米国で引き続き就労することができます。ただし、滞在資格は既に失効しているため、最後のステップは日本の米国大使館または米国領事館で永住ビザを申請することになります。この方法だと、日本での面接日が決まるまで、就労カードを使って引続き米国内で就労できるので、国外での待機時間を最小限に抑えることができます。この過程は複数の申請が関わり注意が必要なので、必ず専門家に相談したほうがよいでしょう。ただし、新政権がこの種類の就労許可書発行を継続するかは不明なので、必ず最新の情報を確認したほうがよいでしょう。
*Priority Date (PD)
Priority Date(PD)とは、Labor Certificationの提出日、Labor Certification免除の場合はI-140の提出日を指します。国別に年間枠が設定されているため、国によってPDが異なります。国務省は毎月申請受付日を発表しており、その日が自分のPDを過ぎれば最後の永住権申請を提出することができます。
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大蔵昌枝弁護士プロフィール
ジョージア州弁護士。アトランタにあるTaylor English Duma LLP 法律事務所勤務。東京外国語大学中国語学科卒業後、日本にて証券会社や製造会社の国際事業部をの勤務を経て、97年に米国公認会計士試験に合格。2002年サウス・カロライナ州サウス・カロライナ大学ロースクールおよびビジネススクールを卒業。経営学修士号(MBA)、法学博士号(JD)を取得。現在は弁護士として移民法やその他の相談などを行っており、日本語、英語、中国語で対応できる。