Home コラム 5  多様な背景を持つ人との話し方

5  多様な背景を持つ人との話し方

 米国で「Asian & Pacific American Heritage Month(アジア・太平洋諸島系米国人の文化遺産継承月間)」とされている5月は過ぎたものの、日本人や日系人としてのアイデンティティは年中変わりません。他のアジア諸国に祖先を持つ人々と共通点を分かち合い、仲良くされている方も多いでしょう。ただ、日本から来たばかりの人や一時的に滞在している人が気にならなくても、米国で生まれ育った人には失礼に聞こえる可能性のある言葉もあります。今回は、多様な背景を持つ人と深い会話を楽しみ、いろいろな文化について丁寧に聞く秘訣を取り上げます。

 まず、ごく普通の質問に聞こえるWhere are you from? には、よくないニュアンスがあります。筆者はこれを通りすがりの人に聞かれたり、米国の地名を回答しても納得してもらえず、親が日本人であるという答えが得られるまで根掘り葉掘り聞かれるといったことを何度も経験しています。容姿だけで外国人だと判断される、特にアジア系の人が頻繁に直面する差別の一種です。悪意がなくてもそのことを思い起こさせる可能性があることから、このフレーズは避けた方が無難です。誰かと初めて会った時は、今いる町や州をもとに、 Have you lived in Cleveland for a while? などと聞き、出身地や家族について話すかどうかは本人に任せた方がよいでしょう。

 出身地の話で言えば、州名に語尾を付けてその住民や出身者を指す(Californian、Michigander、New Yorkerなど)場合、ハワイについては気を付けなければいけません。Hawaiianという言葉はハワイ先住民の方を指すからです。ハワイ系でない方については、How nice that you’re from Hawaii! や So you live in Kona? など、別の言い方をする必要があります。

 複数の国や地域に祖先を持つ方も多くいます。両親が二つの異なる国から来た場合、英語で「ハーフ」と呼ぶことはしませんし、日本でも失礼な言い方だという認識が広まってきています。相手から親の話があった後、You said that your parents are Jamaican and Moroccan, but could you tell me more? などと丁寧に聞いた方がよいでしょう。祖先が特定の国から来た、という話があった場合には、You mentioned that you have Chinese and Irish ancestry, but did you grow up with both cultures? と聞けば面白い会話につながります。どこにルーツがあっても、アイデンティティは人それぞれのため、Do you identify as Japanese American? や Would you consider yourself more French or more Italian? などと明確に聞いた方がその人を良く知ることができるでしょう。

 他者の多様なルーツや文化的背景について学ぶことは米国における醍醐味の一つです。ただ、アイデンティティは機微な話でもあるため、質問をする中で決めつけるような言い方を避け、なるべく自分から話してくれるのを待った方が、長期にわたるよい関係を構築できるでしょう。

 ■プロフィール

 シアトルで生まれ、ホノルルと東京で育つ。Shiori Communications, LLCの代表として、ワシントンDCを中心に、通訳、執筆活動などを展開。日米をつなぐ言葉の仕事に情熱を注いできた。過去には米日カウンシルや在米・在英日本大使館の広報チームで勤務。通訳者としては、日米各地でハイレベルの会議、人的交流プログラムなどを担当。ダートマス大学で学士号、コロンビア大学の国際公共政策大学院とジャーナリズム大学院で修士号を取得。ブログ「tabula sarasara」、ポッドキャスト「CrossWorld Puzzles」更新中。